フレームワーク マーケティング

マーケティングのキホンSTPとは?

マーケティングに関わると必ず耳にするSTP。STPはビジネスフレームワークの中でもトップレベルの頻度で使われるほど有名なもので、マーケティングの父とも呼ばれるフィリップ•コトラー氏が50年以上も前に提唱し、今でも多くのビジネスの場で活用されています。

みんなが一度は聞いたことのある言葉でありながら、多くの企業でこのSTPの本質を捉えておらず活かせていないことで、製品やサービスの販売が期待通りに伸びないということに直面していることが見受けられます。

特に高度経済成長期に発展した日本企業は、「自分達の考える」いい製品やサービスを作ることが売りにつながると信じる傾向がありました。作れば売れ、選択肢も限られた時代にはその考え方も良かったかもしれません。インターネットの発展により選択肢が増え、ニーズが多様化する現代においては自社の製品が「どこの誰に、どんな価値を提供できるものか」が重要で、より顧客視点での考えが必要になっています。STPというフレームワークは顧客視点に立つためのきっかけを提供してくれるものです。

マーケティング施策を考える前に、必ず考えるべき重要なフレームワークSTPは、提唱から50年以上たっても色褪せることのない、本質をついたフレームワークです。今一度その内容と利用方法を確認してみましょう。

参考

STPの提唱者であるコトラー教授の代表著書マーケティングマネジメントです。STPに関しても、セグメンテーション、ターティング、ポジショニングそれぞれ章ごとに解説されています。


STPとは?

STPはSegmentation(セグメンテーション)、Targeting(ターゲティング)、Positioning(ポジショニング)の頭文字を取ったフレームワークです。要は、顧客は誰で、市場での立ち位置はどのような商品なのかを定義することです。

このSTPが曖昧な製品やサービスであるほど、マーケティングを実施する際に誰にどんなメッセージで広告やコンテンツを展開すれば良いかを見失い、営業も売れるセールストークを作ることができずに、何をやっても成果が出ないということが起こりえます。

もしSTPは曖昧でありながら売上を上げている企業の場合は、非常に強力な営業力を持っていると言えるでしょう。日本の中小企業には多いタイプと言えます。強力な営業力は強みなので、さらにSTPが明確な製品、サービスを展開すればより競争力を上げられる可能があります。

どんな企業のタイプであってもSTPを考え、明文化することはビジネス発展の大きな力になります。その詳細を見ていきましょう。

セグメンテーション

製品、サービスの展開先となる市場を細分化して特定することをセグメンテーション(Segmentation)と呼びます。市場の細分化は広すぎても曖昧になってしまい、狭すぎてもビジネスがスケールしないため絶妙な設定が必要です。

例えばバッテリー市場を例に挙げると、今ではスマホ、ゲーム機、車、モバイルバッテリーなど様々なところで使われており、プレイヤーもサムスンSDI、LG化学、アンプレックステクノロジー、村田製作所、パナソニック、ソニーなど無数に存在します。

パナソニックを例に挙げると、「EV向けの車載バッテリー市場」でシェア25%ほどで1、2位を中国企業と争っています。しかしながら、「スマホ向けのバッテリー市場」では全くランキングには登場しない状況です。もしパナソニックが「バッテリー市場」という大きな括りでマーケティングを実施しようとすると、EVメーカー、スマホメーカー両方へのアプローチが必要になりますが、そもそも製品がスマホ向けバッテリー市場で競争力を持てないものの場合、投資が分散してしまい結果としてEV向けの市場も取れずに、全体の成果を押し下げてしまうでしょう。

市場の細分化の切り方は様々で、年齢や性別、家族構成、職種、業種、会社規模などのデモグラ情報や国や市区町村などの地理的な要素、価値観やライフスタイルといった心理的要素などで切ることもあり、提供する製品やサービスによって切り方は異なります。

市場を細分化した後には、細分化した市場から勝てる市場に的を絞ることもまた必要なことです。そのことをターゲティング(Targeting)と呼びます。次にターゲティングを説明したいと思います。

ターゲティング

ターゲティングはセグメンテーションで細分化した市場の中から、自社のもつ強みや弱み、他の競合他社と比較をして勝てる領域を選択することを言います。

先程のパナソニックの例でいうと、EV、スマホ、ゲーム機、モバイルバッテリーなどの市場から戦う対象を選ぶということになります。選ぶ方法は大きく分けて3つあります。

  • ターゲットを絞らない
  • ターゲットを絞らないが、複数のセグメントに違ったアプローチをする
  • ひとつのセグメントにターゲットを絞る

ターゲットを絞らないというのは乱暴に聞こえるかもしれませんが、新製品や新しい分野を開拓する製品を展開する場合、細分化したセグメントの中でもどこを狙うのがビジネスにつながるのかわからない場合があります。そんな時には思い切ってターゲットを絞らず展開し、どのセグメントが成果につながるかを実践して調べるのも一つの手です。

マーケティング観点では、ターゲットを絞らない場合、とにかく露出を増やし、低単価でリーチをかけることが多いです。消費財や食品などBtoCビジネスで多く見られます。数打てば当たる戦法ですね。

ターゲットを絞らず、セグメントごとに違ったアプローチをするというのは、細分化したセグメントごとに製品を変えたり、マーケティングメッセージを最適化することです。当たり前に聞こえるかもしれませんが、パナソニックの例ではEV向けの商品は大型、大出力で、信頼性のあるバッテリー、スマホ向けには小型で高密度、充電サイクルが多くてもへたらないバッテリーを展開するなどセグメントごとに製品自体を変えています。

マーケティングにおいては、製品は同じでもセグメントごとにマーケティングメッセージや展開場所を変えることもあります。チョコのキットカットの場合、チョコ菓子であることは変わりませんが、女性が職場で食べる間食用向けのメッセージと、学生の験担ぎのメッセージは異なり、同時に違った場所で展開されることは起こります。

ひとつのセグメントにターゲットを絞るは、ニッチ戦略とも呼ばれますが、限られた市場に絞るターゲティングです。高級時計メーカーは高価格高付加価値かつターゲットは30-50代男性で年収も絞った想定をしているでしょう。ある特定の市場に絞り、その市場で圧倒的な地位を築くこともひとつの戦略です。マーケティングにおいてもメッセージがシンプルで明確になりやすいのでマーケティング投資先も絞られアクションが打ちやすいです。

ターゲットをどのように絞るかはビジネスの根幹です。自社のビジネス状況、競合他社の出方、世の中の流れやトレンドなどさまざまな視点から検討して、勝てる市場を選択し、顧客へアプローチすることが大切です。

ポジショニング

大抵の場合、勝てるであろう市場をターゲットに据えたとしても、同じようなビジネスをしているプレイヤー、競合他社が存在するはずです。ポジショニングで考えるべきは、競合他社との差別化です。

再びパナソニックバッテリーの例ですが、EV車向けのバッテリーの理想は安く、品質が高く、高耐久性で、高負荷にも耐えられ、容量が大きいものです。しかしながら、すべての要件を満たすのは難しいためどこかに強みを持ち、弱い部分は捨てて競合他社と戦います。パナソニックの場合は価格を捨て、品質と耐久性、容量に焦点をあてています。それがポジショニングであり、市場に受け入れられることで、シェアを維持できます。

製品のポジショニングを理解しないままマーケティングを実施した場合、高付加価値を訴求すべきところ、価格が安いという価格競争のアプローチをしてしまったり、どこよりも価格が安いことが強みなのに機能ばかりを訴求してしまうことが起こります。どちらの場合も大きな機会損失になるため、ビジネスとマーケティング両方のマッチングが上手くできている状態でないと、冒頭に述べたように思うような成果をあげられないことに陥ります。

まとめ

STPは単にマーケターがプランニングに使うフレームワークではなく、事業部全体で明確にされている必要があり、関わる人が自分たちが「誰の、何のための製品やサービスを売ろうとしているか」を明確にするために使われるものです。

よって、このフレームワーク自体はビジネスの肝であり、これがはっきりとしない製品やサービスは裏を返すと、誰にも受け入れられないものなので、いつまで経っても成果は出ないと考えるべきでしょう。

STPを明確する過程において、自社の製品サービスの場合でのイメージがつかないという方は、Mクリステンセン教授の著書ジョブ理論を参考にするのがおすすめです。物を買うや売るではなく、ジョブと雇い入れるという視点で表現し、顧客の真の課題と雇い入れられるための思考法を書いています。誰に何を価値提供するのかを考えるSTPにおいても非常に参考になるためオススメです。

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